近年、企業の商品における偽装表示や粉飾決算などの不祥事が多発し、一層社内のガバナンス強化に取り組む大企業が増えています。調達購買の分野においても他人事ではありません。本記事では、ガバナンス観点で課題が残る間接材購買領域の適切な管理方法をお伝えします。
コーポレート・ガバナンスとは社内統治という意味で、企業が自ら社内を律していくことを言います。ガバナンスが弱い企業は、不正や不祥事のリスクが高まり、企業価値を損なう可能性があります。さらに、社会的責任を果たす企業としての地位を確立するためにも、ガバナンス強化は重要です。
また、2015年より東京証券取引所が実効的なコーポレートガバナンスの実現に資する主要な原則を取りまとめた「コーポレートガバナンス・コード」を発行、直近では2021年に改訂しており、現在はプライム市場・スタンダード市場の上場会社に対しそのすべての項目に準拠することが求められています。
■会社の予算を使用した私物の購入
架空の用途での発注を作成し、実際に購入した商品を業務利用ではなく私物にしてしまうケースです。発注の申請フローが定まっていない、監査体制がない企業で起こりやすい事案です。過去には、100万円を超える額の物品の横領が起きた不正事例もあります(※)。ガバナンス観点から購買管理の必要性を説いてきましたが、特にこの分野で課題が残っているのが間接材の領域です。企業活動において、要となる直接材(製造の原材料や部品など)費用は多くの企業では専任担当がおり適切な管理のもと購買されているケースがほとんどでしょう。しかし、直接材以外の間接材(制服や消耗品、工具、機械のメンテナンス品、備品や、出張経費、家賃、光熱費など)は、商品やサービスに直接影響するものではないがゆえに管理が疎かになりやすいです。
特に大企業の間接材購買によくある購買の状態が、各拠点(グループ会社・営業所・工場・店舗等)にそれぞれ購買を任せている状態です。
まずは企業全体で取引をするサプライヤーを選定し、企業契約を結ぶことです。
品質面・納期・価格等から信頼できるサプライヤーを選定し、基準を明確にしたうえで契約を締結します。企業契約を結んでおくことで、何かあった際にも企業対企業の対応がしやすくなります。
また、サプライヤーの選定にあたっては、現場のニーズをカバーできる品揃えがあることも重要です。自社のニーズに合った品揃えの豊富なサプライヤーを選定するとともに、必要があれば複数のサプライヤーを活用します。会社で選定したサプライヤーで現場のニーズがカバーできれば、別ルートでの購買の可能性を減らすことができます。
それぞれの拠点地域に合った地場商社の活用も有効ですが、企業契約のできるECサイトを活用すると、全国の拠点で同一のサービスを受けることができ、購買履歴も自動でサイトやシステム内に集約できるため便利です。
間接材購買状況を見える化するために、購買状況のデータ化を推進しましょう。ガバナンスを強化したい範囲を明確にし(サプライヤー管理・購買明細管理等)、それに合ったプロセスやシステムを導入することで、全社の購買状況を可視化・データで記録していくことができるようになります。支出の透明性が向上し、不審な購買や無駄な支出を早期発見することが可能になります。
モノタロウでは購買状況のデータ提供・データ分析も提供していますが、利用履歴や在庫状況も一元管理しやすくなり、管理の効率化が図れます。
社内で適切な購買ルールを設定しましょう。
先に述べた通り、間接材の需要は多岐にわたるため、全てを統制するのではなくある程度の柔軟性は必要な考え方です。ただ不正を防ぐ観点では最低限のルールを設定し、実態に合わせて変更をしていくのがおすすめです。
例えば、
‐社内稟議が必要な購入金額を設定する(1万円以上は稟議必須等)
‐購買禁止品の設定、購買制限品の設定(食品購入の制限、危険物の購入にあたっては特殊な申請が必要等)
このようなルールのガイドラインを作成して社内に徹底するとともに、購買における承認フローの設定も有効です。現場社員が間接材を購入する際に申請し、上長や管理が承認するフローを適切に組むことができれば、ある程度管理体制を敷くことができます。承認フローは、専用のツールを使うなどのほか、ECサイト購買やシステム購買では承認フローを設定できる場合があります。
間接材購買のプロセスに対する定期的な監査を実施し、不正や無駄がないかをチェックすることが必要です。独立した監査チームを設けることで、公正な評価が可能になります。また、内部統制を強化するために、購買担当者の権限を明確にし、職務分掌を徹底することが求められます。
色々と方法を紹介してきましたが、調達購買部門・購買管理を担当する部門が新設部門である、各拠点とのパワーバランス、などの要因で統制を利かせるのは難しいというケースもあるかと思います。そうした軋轢やトラブルを防ぐためには、統制体制の構築などに特化したコンサルティングなど外部へのアウトソーシングなどを検討に入れても良いでしょう。
間接材購買もすべて本社調達部が見積・発注・納品指定を行う集中購買を徹底している企業もあります。これも一つの方法ではありますが、実際には見積購買の負担が増える・現場からの問い合わせ増など、本社調達部や購買管理を担当する部門への負担がかなり大きくなってしまいます。
集中購買は、制服や安全器具など、安定したロットで発注する指定品等には有効ですが、拠点ごとにニーズが違う製品など、すべての間接材に向いている方法ではないと言えます。
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本社で指定品リストを作りリスト内の商品のみ購入を認める、といった方法もないわけではありません。しかし、間接材は多種多様にわたり、社内で使う物品の品目数も非常に多くなります。リストのメンテナンスや廃番時の対応、現場で突発的に発生したニーズなどに逐一対応していくことで、調達・現場双方で不便が生じやすくなります。現場が本当に必要な資材をすぐに入手できない、という状況にも陥りやすくなってしまいます。
社内のガバナンス強化は非常に重要な項目ではありますが、実際に企業活動や生産に必要な資材をスムーズに入手できることも調達購買の重要なミッションです。信頼できるサプライヤを選ぶことから始め、管理体制を徐々に整えていきましょう。ECサプライヤなどを活用すれば現場での購買が可能な状態にしたとしても、購買データを蓄積して状況の把握・是正をしていくことは可能です。どの部分は管理を強めるべきなのか?どの部分は現場に任せても問題がないか?などを品目カテゴリ等の状況から見極め、優先度の高い領域からルールの設定・プロセスの変革を進めていく、というのがバランスの良い方法でしょう。
間接材購買におけるガバナンス強化は、企業の経営効率を高め、透明性を確保するために非常に重要です。信頼性のあるサプライヤーの選定、EC購買などを活用したプロセスの整備や購買状況の可視化、社内ルールの整備、定期的な監査と内部統制の強化、そしてデータ分析による購買の最適化など、取り組むべきポイントは多岐にわたりますが、現場の購買ニーズや状況との照らし合わせをして自社に合った方法を適用していくのが良いでしょう。
また、購買状況の可視化を進めていくことは、ガバナンス強化に役立つだけでなく、結果的にはコスト削減余地の算出や、業務工数削減などの施策に取り組みやすい環境を整えることにもなり、購買管理活動においてメリットが大きいポイントです。
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